研究プロジェクト
ゲノム計測 + 生命データ + アルゴリズム
ライフサイエンスの不連続な革新は計測技術の革新によって生まれてきました。
また新しい計測技術の側には新しい情報科学技術が生まれます。
我々はライフサイエンスの計測技術と情報技術の両方をひとつの研究室で開発することで、ライフサイエンスの革新を目指します。
近年、基盤モデルのような大規模で多彩な人工知能が登場したことで、大規模なデータをあらゆる疾患の理解につなげる道筋ができつつあります。基盤モデルは大規模で多様な高品質のデータを学習することで、劇的に性能を向上させることや新しい予測能力を獲得できるとされています。生命科学は基盤モデルの登場により大きな変革のときを迎えています。
基盤モデルの支援を受けながら疾患を理解し制御するために、我々は以下の3つが必要だと考えます。
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AIのための計測技術: AIが学習する大規模で高精度なデータをどのようにして計測するのか? AIが見たこともない新しいモダリティをどのように計測するのか? 人間がこれまので研究が捨ててきたネガティブデータをどのように計測するのか?
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AIのためのデータ: AIが学習したことのない検体、時空間、摂動、量、精度でデータをいかにして収集するか?
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生命科学のためのAI: 大規模でマルチモーダルな計測データから複雑な疾患を理解し制御するためにどのようなAI技術が必要か?
我々はこのような視点から、ゲノム科学領域の新しい計測技術と情報科学をひとつ屋根の下で研究開発しています。
生成AIを用いた大規模ゲノムデータからの知識抽出
数千から数万検体の大規模なゲノム科学データから機械学習、バイオインフォマティクス、計算機科学などを利用して疾患機序解明や創薬に繋がる知識を発見するデータサイエンス手法を開発します。現在、数千から数万オーダーの全遺伝子発現(トランスクリプトーム)データを用いて、疾患に関わる細胞を同定しその機能や制御因子(化合物や培地、変異)を同定・推薦するデータサイエンス技術を開発しています。
このような大規模トランスクリプトームデータと化合物構造、遺伝子機能などをTransformerなどで学習した大規模生成AIを開発し、細胞・遺伝子治療や創薬への応用を目指します。
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2019年2月25日「高速検索エンジン「CellFishing.jl」を開発」
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2020年2月25日「大規模データに対する主成分分析の性能を評価」
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2020年3月3日「見逃されていた細胞ごとのばらつきを可視化するソフトウェアを開発」
単一細胞オミクス技術開発
我々は世界最高性能の1細胞RNAシーケンス法Quartz-Seq2の開発に成功しました(Sasagawa Y. et al. Genome Biol. 2013, 2018, Mereu E. et al. Nature Biotech. 2020)。この技術を用いるとたったひとつの細胞に含まれるすべてのRNAの種類と数を正確に計測できます。Quartz-Seq2を用いることで、臓器や組織に含まれるあらゆる細胞種類の特性を計測できます。疾患が起きた臓器・組織内の細胞特性を調べると、疾患の原因の解明や創薬を行うことができます。
Quartz-Seq2をベースとして、空間トランスクリプトーム技術、マイクロ流体デバイス型のハイスループット1細胞RNAシーケンス法、ロングリードシーケンスへの対応、マルチオミクス計測など新しい技術開発を行います。またその技術を用いて疾患や生命現象の解明を進めます。
1細胞オミクス技術開発
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2013年7月25日「細胞1個の遺伝子発現を網羅的に定量化する「Quartz-Seq法」を開発」
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2018年3月31日「数千個の1細胞からRNA量と種類を正確に計測」
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2018年2月14日「1細胞から多種多様なRNAのふるまいを計測」
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2019年9月17日「1細胞 RNA解析キットの商用化へ」
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2020年4月7日「1細胞RNA解析で世界最高成績-国際的な性能比較研究で証明-」
1細胞オミクス技術の応用
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2020年6月3日 「免疫応答遺伝子の発現多様性を明らかに」
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2020年6月18日「突発的遺伝子発現動態を網羅的に決定」
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2021年6月10日「毛包幹細胞の発生起源を解明-筒状の区画に幹細胞を誘導する「テレスコープモデル」の提唱-」
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2021年7月12日「遺伝子の構造が「密」になると遺伝子の働きが抑制される-遺伝子が巻き付いた円柱構造に着目して解明された遺伝子の働く強さの調節-」
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2021年7月13日「卵母細胞の老化を1細胞で捉える-ライフステージと食餌制限によるトランスクリプトーム変化-」
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2022年5月3日「自閉症原因は胎児の時から?」
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2023年6月30日 「胃粘膜を保護する幹細胞分化制御のしくみを解明」
大規模ゲノム科学実験法の開発
これまで計測できなかった事象、これまで達成されていなかった精度・規模で生命現象を計測・制御する新しいゲノム科学技術を研究開発しています。アカデミックな研究に留まらず、これまで数々の技術を開発しそれをもとに製品化、起業してきました。今後も技術の積極的な社会実装を目指します。
近年、iPS細胞やオルガノイド技術の発展により、患者由来のin vitro疾患モデルが作製できるようになりました。細胞の機能に影響を及ぼす薬剤や培地、遺伝子などを特定するために、数百から数万検体の細胞に摂動を与えてその影響を調べる表現型スクリーニングという方法の重要性が増しています。しかし、それぞれの疾患モデルごとにアッセイ系を開発することは大変な労力が必要です。また、表現型スクリーニングでは化合物や遺伝子への摂動の影響が様々な生体パスウェイに生じ得ます。
このようなモダンな疾患モデルを利用した表現型スクリーニングを加速するためには、事前知識になしにあらゆるパスウェイを計測できる汎用的なマルチアッセイ系が必要になります。
我々は数千検体を従来の約1/100程度の労力で高精度にトランスクリプトーム解析できる計測手法を開発しました。この方法を使うと、ひとりの研究者が数千から数万のトランスクリプトームを現実的な時間と労力で得ることができます。
この手法を用いて、数千化合物を加えて培養した細胞や、数百種類の異なる培地で培養した細胞、数千細胞株のiPS細胞バンクなどのトランスクリプトームデータを取得しています。我々はこれをWhole-transcriptome based screening (WTBS) と呼んでいます。
このようなデータは、細胞機能を制御する化合物や培地、遺伝子変異などを高速に同定し、難治性疾患の診断・治療に繋がります。
研究費
これらのプロジェクトの一部は以下の資金で実施されています。
実施中
令和4年度 経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program) 研究開発構想(個別研究型)「生体分子シークエンサー等の先端研究分析機器・技術」(分担)
JST CREST 多細胞間での時空間的相互作用の理解を目指した定量的解析基盤の創出 (分担)
終了
研究環境
多様なゲノム実験機器と豊富な計算資源で研究に集中できます。詳しくは Facility をご覧ください。
研究室運営についてのFAQ
どのようなポリシーで研究室が運営されているかは以下をご覧ください。理研のラボ向けに書かれたものですが本学の研究室でもほぼ同様の運営方針になっています。
研究に参加するには?
本学内外から学生を募集しています。また研究員や助教、テクニカルスタッフなどを随時募集しております。